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日々進化するものについては、daily(日毎に)という言葉があるが、最近のAIは、nightly(夜毎に)で進化していると言われているらしい。寝る前の状態が朝起きてみるともう変わっている。それほど進化が急速だとAI情報に詳しい友人が教えてくれた。AIと戯れているに過ぎない私などから見ても、その進化は驚くものがあり、大げさに言えば「秒速で進化している」とさえ思えてくる。最近では、AIを「エージェント(秘書)」として、自分の業務に多彩に利用している人もいるが、素人の私が最近実感した、その進化ぶりを幾つか書いてみたい。
◆鉛筆の下書きに色を付けてもらう
最初は、AIの作画能力についてである。既にAIをフルに使った映画やアニメが出来ている現状で、私が通う制作会社でも2年前からフルAIの短編アニメシリーズを作って来た。そこには多様な画像生成AIが使われ、これも日進月歩で利用するアプリが日々変わる状況だった。今回は、私が2年半前に描いた抽象画の鉛筆の下書き(左)に色を付ける「遊びと実験」をしてみた。当時の出来(右、GTP)はとても絵とは言えないものだったが、最近のAIはどこまで進化しているのか。それを2つのAIアプリ(google
GeminiとGPT5)で実験してみた。
 
まず、Geminiにやらせてみた。彼は画像生成AIのnano bananaを駆動させて下書きを読み込み、30秒ほどで色づけしてくる。何も指定しないと、この下書きに引きずられたのか、やたらとサイケデリックな画風を提示してきたが、私の好きな画家パウル・クレー風の色彩でと指示すると、下のような絵(左)を描いてきた。細かいところまで描き込んでいて、色のトーンも気に入った。次に、GTPはどうかと何度か指示をやり取りしながら試みてみた。その最終結果が右。色数を減らして絵に緊張感と奥行きを持たせ、「晩年のクレー風」にしてみたと言う。
 
◆遊びだけではなく様々な利用にも
クレーと言うより、抽象画家のブラック的だが、GTPは「ここまで来ると、もはや「AIで遊ぶ」ではなくてあなたの作品をどう仕上げるかの共同制作ですね」などと言う。AIに画像の作成手順を尋ねると、次の3つのステップになるという。まず、下絵の解読。画像をスキャンし、そこに何が描かれているかを多様な言葉のデータとして変換する。同時に私の指示を彼なりに解釈し、「膨大な学習データ(何百万枚もの絵画の知識)をもとに、真っ白なキャンバスの上に一画ずつ色を置くように画像を生成する。これを30秒ほどでやってのけるから驚く。
さらにはこんなことも。私の便秘の症状と医者による3種の薬について、薬によっては口が渇くといった副作用もあるが、それを避ける飲み合わせなども助言してくれる。これを別な医者に聞いたら、それでいいという。あるいは、カミさんの白内障手術の後遺症についてや、娘の乳腺炎の予後について、彼女たちが医者から聞いた説明以上に、症状の原因、処方などを丁寧に解説してくれる。医者の代わりは出来ないけれど、膨大なネット情報をもとに、的確に答えてくれるようになっている。こうした「補助的な解説」はもうAIの仕事かもしれない。
◆AIの進化を番組企画に取り込む方法
さらに、私が重宝しているのは番組企画への応用である。もうそんな役回りではないが、時には「こんな番組が出来ないか」と企画書を書いたりしている。例えばNHKから制作会社に「〇〇」という番組の企画募集が来たとする。私の手順は以下のようなものである。まずAIに番組のコンセプトを理解させ、取り上げたいテーマに対する私の問題意識を丁寧に説明する。その上で、最新情報を集めさせる。次いで、視点の掘り下げ、情報源の確認、情報の抜け落ちなどを対話しながら企画をより深めて行く。対してAIはその都度、瞬時に答えを出してくる。
次に、こうした情報のやり取りをもとに、番組企画として情報を整理させ、タイトル案、番組のねらい、構成要素、取材先の情報などに順序だてた企画案として提示させる。もちろん、AIが提示する企画案は、まだ単なるヒントに過ぎないわけだが、これで番組テーマに沿った最新情報と取材先は揃ったことになる。そこで、今度は自分が私の問題意識に沿って、あるいは番組の魅力を意識して(タイトル案、番組のねらい、構成要素、取材先の情報を吟味した)企画書として仕上げる。最近は、この最終段階の案を別のAIにチェックさせる場合もある。
◆AIの進化をどう業務に取り入れて行くのか
例えば、GTPとの対話で作った企画案をGeminiに見せると、「これはNHK的には言い過ぎ」とか、「まだ研究段階でここまでは言えない」などと、率直にチェックしてくれる。この逆もあり得るだろう。さらにはGTPの有料版にチェックをかけ、3者3様の違いを見るのも面白い。もちろん、実際に企画を通して番組にするまでは、この何百倍もの手順と労力があるわけだが、日々進化するAIをメディアの現場でどう生かして行くのか。企画から放送までの制作過程にAIを取り込むノウハウと、これを適切に使う留意点が重要になって来る訳である。
実は今、メディアの現場のみならず、様々な産業でAIの進化をどう業務に取り入れて行くのかという切実な問題がある。例えば、人手不足に悩む中小の製造業の場合、ベテランの技を若い人がすぐに身につけることは難しい。また、募集をかけても若い人材が集まらない。仮に若い世代が現場でAIを生かそうにも、ベテランはAIなんかに興味がない。そうした産業にAIの進化をどう取り込んで、イノベーションを図るか。先日、学会の仲間との雑談会でそうした問題意識を持った私は、早速「〇〇×AI」というテーマでAIと会話してみることにした。
◆AIの社会実装「〇〇×AI」を考える
〇〇には、製造業、農業、医療、行政、サービス業などが入って来るが、そこに、どうAIを取り入れるか。これは、いわば「AIの社会実装」とも言うべき重要なテーマである。産業ごとの違いもあるが、AIは以下のような共通の問題点を指摘した。まず現状認識として、AIの進化は単なる効率化ツールの段階を超え、「意志決定、創造、熟練の補助」にまで及んでいるが、そこには、現場は「使い方が分らない」、経営層は「投資対効果が見えない」、熟練層は「自分の技術が置き換わる不安」、若年層は「現場の文脈が分らない」と言った「断絶」があると言う。
従って、「AI導入問題の本質は技術ではなく、組織設計と世代融合にある」と指摘する。つまり、熟練知とAI知をどう結び付けるか、そうした世代融合が可能になる組織はどうあるべきか。世代対立ではなく共に働く関係の構築、さらには大規模投資ではなく「小さく試す文化」も必要だと言う。AIは人を置き換えるのではなく、人と人(世代と経験)の断絶を埋める装置だとも言ってきた。アメリカの金融業などではAI導入によって人減らしが進んでいると言うが、中小企業が大部分を占める日本としては、この提言に耳を傾けるべきかもしれない。
◆「AIの社会実装」問題をウォッチングせよ
もちろん「秒速で進化するAI」は、人類を滅ぼしかねないような恐ろしさも合わせ持つ。それを急速に進めているのは、アメリカなどのテクノリバタリアンたち。彼らは、自分の富と権力を最大化するために、際限のない進化をAIに与えようとしている。国家をも超える野望をAIに賭けようとしているが、それで人類の大多数が幸福になれるのか。彼らの視野には、下層の人類などは入っていないに違いないが、彼らの欲望をも超えて進化したAI(超知能)は、やがて人類全体を下等生物としか見なくなるだろう。AIの進化は、そうした怖い問題も抱えている。
しかし一方、少子高齢化で産業が停滞しつつある日本では、AIをその幸福のために利用して行くことが欠かせない。AIの急速な進化を見極め、それを産業や社会のイノベーションに賢く取り込んでいく。こうした視点で、メディアも「AIの社会実装」問題を、ウォッチングして行くべき新たな時代に入りつつある。
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