世界の不況は大方の予想通り、ますます深刻な様相を見せ始めている。今回の金融危機で世界経済が受けた傷の深さに比べると、日本政府が考える財政出動やアメリカの自動車会社救済などは目の前の大出血に絆創膏を張る程度の応急処置に過ぎないように思える。
この不況はいつまで続くのか。この不況から脱するためには何をすればいいのか。また私たち市民の方は今回の不況に一体どういう覚悟でのぞむべきなのか。
こうした疑問にこたえる手掛かりを探ろうとするのだが、目の前の動きがあまりに急すぎて浮き足立ってしまう。政府の対応だって的を得ているのかどうかあやしいものだ。
こういう時は円高や株安のニュースに一喜一憂せずに、まず出発点に戻って今回の危機の本質を直視する必要があると思う。というわけで今回もおさらいになるが、「アメリカの住宅バブル崩壊がなぜ世界同時不況につながったのか」、「世界の不況はなぜ長引くのか」と言う点について情報を整理しておきたい。
住宅関連金融証券バブルの発生
ご存知のように、今回の金融危機はアメリカの大手住宅ローン会社が、低所得者層向けに貸し付けた住宅ローン(サブプライムローンという債権)を様々な金融商品(社債や住宅関連証券など)に仕立てて世界中に売り出したことから始まった。
その金融商品はアメリカの住宅ブームのお陰で実際にはリスクがあるのにリスクが見えなくなり、市場では確実な利益を生む金融商品として人気を呼んだ(そこにいわゆる金融工学も寄与したらしいが)。また、住宅関連証券は単体のものだけでなく、細かく切り分けられて消費者ローンや自動車ローン、中小企業ローンなど他の金融商品にも組み込まれて売られたために、サブプライムローンに関連した金融商品(金融派生商品=デリバティブ)の規模はアメリカの住宅バブルをはるかに越えたものに膨らんでいった。
住宅関連証券の市場に多くの資金運用者(ファンドマネージャー)が値上がりを求めてマネーゲームを行う、一種の証券バブル状態となって行ったわけで、中には莫大な国家資金をファンドマネージャーに預けて儲けようとしたアイスランドのような国まで現れた。
資本主義が作る新手のバブル
その一方で、アメリカの住宅ローン会社は証券を売って早くに資金を回収、世界から吸い上げたその金をさらに多くの貧困層に貸付けて住宅をどんどん作らせた。本当ならローンを返す当てのない貧困層まで借金して住宅買いに走ったために、アメリカは住宅ブームとなり住宅は値上がりを続けた。いわば意図的効率的に膨張を仕組まれた新手のバブルの発生である。
そもそも経済的なバブルとは、対象は何でもいい。そこに次々と資金が投入される結果、モノが値上がりし続けると同時に、いつでも転売、現金化が可能で、売った時に簡単に値上がり分を儲けることが出来ると思われたときに発生する。(「すべての経済はバブルに通じる」)
ひと頃の日本の土地や住宅もそうだったが、値上がりが続いていつでも転売できるとわかれば、仮にローンが返せなくなっても買った時以上の値段で売れるのだから、皆が気楽に借金して土地や住宅を買う。
皆が争ってモノを買うようになるとモノの価格はさらに高騰し、売ったときに(買った時との差で)利益が期待できるようになる。そこに金儲け目当ての投資家も参加して、土地ころがしや住宅ころがしをしながらマネーゲームに走る。そうなると、そのモノの市場は巨大な泡(バブル)のように膨らんでいく。
現代のマネーゲーム資本主義は、このバブルが膨らむスピードをより増大させて来ている。
バブルの崩壊と金融危機 しかし、このバブルはいつまでも続かない。アメリカ国内に需要を限っている限り、やがて必ず需要は止まって価格上昇は止まる。そうするとバブルを維持してきたメカニズムが破綻してローンを返せなくなる人たちが続出する。 絶対にローンを返せない層までをも巻き込んだアメリカの住宅バブルはまさにこの道筋を突き進み破裂した。住宅バブルが終わると、当然のことながら住宅関連証券にも波及する。隠れていたリスクが顕在化し、信用不安が起きて一気に値下がりする。住宅関連金融商品のバブルの崩壊である。
世界中から資金を預かって運用していたファンド運用者たちはサブプライム関連証券の値崩れによって莫大な損害をこうむることになった。いわゆる「資本主義の暴走」というテーマは次の機会に廻すが、彼らは預かった資金のほかにも、その資金をもとにさらに莫大な借金をして(それを可能にした仕組みがレバレッジと言うらしい)運用していたために巨額の損害を抱えることになった。
巨額の損害を抱えたファンドマネージャー ファンドマネージャーたちは、サブプライムローン関連証券が危ないということには、黄色信号が点り始めた昨年の夏くらいから気づいていたという。しかし、危険なマネーゲームと知りつつ、最後の最後までゲームを続けて皆で傷を深くした。
彼らは、資金を預かった政府系ファンドや銀行、年金基金、国家などのお堅い基金から常に少しでも高い利益を上げるよう競争を強いられていたために、破綻のぎりぎりまで利益があったこのゲームから誰も最初に降りることが出来なかったのだという。
近年のマネーゲーム資本主義の登場によって資本家と資金運用者が分離した結果というが、これも現代の資本主義が抱える病理の一つなのかもしれない。
問題は損害の大きさ
住宅バブルの崩壊→金融商品の値崩れ→金融危機→株安。そして世界同時不況までは一本道である。円高もその道筋の一つだが、それついては次回に譲るとして、問題は今回の金融危機で世界が抱えた損害の大きさである。
本当はもっと正確に知りたいところだが、今回の金融危機でファンドマネージャーたちの世界はどうも戦争直後のような焼け野原状態らしい。手持ちの金目のもの(株や証券)を売り払っても借金が返せず次々と経営破綻し、マネーゲームの担い手が無一文になって職を離れている。 ファンドマネージャーたちは衝撃の大きさから立ち直れず、新たに株式投資やバブルの目のありそうなものに投資しようという資金もない。株安や金融商品の値崩れで世界が失った金はおそらく2,3千兆円(世界の株だけで2000兆円消失したので、他の金融商品の下落などを入れるとそれ以上になる)にもなるだろう。
世界の金融機関は凍りついたようになっていて、投資に回らない。こういうことを考えると、この不況は出口が見えないくらい長く続きそうな気がするし、日本の政府の打つ手もピントがずれているように思えてならない。
では、どうすればいいのか。そのことについては長くなったので次回に。
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